水泳実践上の注意点


1. はじめに
 今まで4回にわたり有酸素運動の実践について述べて参りました。
  1) 運動不足が生活習慣病を招く。有酸素運動が動脈硬化の進み方を遅くする。
    安全にして有効な有酸素運動実践法。
  2) 運動の効果がよりよく発揮されるために必要な、検査成績の正しい解釈。
  3) 新糖尿病診断基準。睡眠、日焼けと有酸素運動。
  4) アルコール、たばこと有酸素運動。
 今回は水泳についてその長所と注意点を述べます。
 
2. 水泳の有酸素運動としての長所
 水泳は有酸素運動として、次に述べるような優れた特長を備えております。
  1) 沢山の筋肉が参加するので、有酸素運動としての効果があがります。
  2) 浮力が働くので、関節や筋肉に傷害のある人に適しています。
  3) 湿った空気を吸うので、気管支喘息などの呼吸器の病気の人に適しています。
 
3. 水泳の注意点
 反面、水泳なるが故の事故もよく知っていただく必要があります。
【事故の実態】
  1) 中高年者のスイミングクラブでの事故の実態
 スイミングクラブでの中高年事故例23例の年齢、性、事故模様、経過を表1に
示しました。この23例の中、血圧の上昇が引き金となり得るものとしては、
脳出血7(23.4%)、くも膜下出血3(13.0%)、高血圧性脳症1(4.3%)、胸部大動脈瘤による
胸痛1(4.3%)、一過性血圧上昇2(8.7%)、その疑い1(4.3%)、計15例(65.2%)が
考えられました。一方、脱水が引き金となり得るものとしては、心筋梗塞2(8.7%)、
その疑い1(4.3%)、一過性脳虚血2(8.7%)、その疑い1(4.3%)、計6例(26.1%)が
考えられました。以上、血圧上昇が引き金となり得たと考えられた事故が2/3、
脱水が引き金となり得たと考えられた事故が1/4を占めていたのです。
では、対策はどうしたらよいでしょうか。
表1 中高年者のスイミングクラブでの事故

年齢 事故模様 診断 転帰(備考)
48
36
60
 
45
52
48
71
43
62
68
42
65
59
41
56
64
49
64
56
79
73
51
水泳中気分不良,更衣中嘔吐,血圧上昇
水泳中,強い頭痛,血圧上昇,嘔気,けいれん,意識混濁
200m泳ぎ頭痛,一過性右上肢しびれ,一過性言語障害
水泳後サウナにて気分不快,一過性意識喪失(2回)
水泳中硬直,一過性の意識障害,一過性の呼吸停止
水泳中気分不快,左上下肢しびれ,血圧上昇
約300m泳ぎ,左半身しびれ感,血圧上昇,左片麻痺
水中歩行運動中上下肢しびれ,言語障害,嘔吐,意識喪失
もぐり後右前頭をおさえ言語障害,意識喪失
プール内で足がもつれ飲水,頭痛,血圧上昇(145/123)
初級クラス練習約40分にて気分不快,嘔吐,胸痛
水泳中苦しさ,意識喪失,心停止
水泳中気分不快,胸部苦しい
練習終了後,しだいに言語障害,右片麻痺出現
水泳中頭痛,血圧上昇(143/103),1時間後嘔吐
水泳後サウナ,身支度後動悸,胸圧迫感
水泳後激しい頭痛
水泳中頭痛,中断,うずくまる
800m泳ぎ気分不快,血圧205/106(平生145/93)
泳ぎ出して45分後,力泳中頭痛,ロッカー室にて嘔吐
背泳中止し歩行後倒れる,呼吸・心停止,意識喪失
泳ぎプール内で休息中言語障害,痙攣,左上肢不全麻痺
水泳中コースロープにもたれる,嘔吐,左片麻痺,言語障害
くも膜下出血
くも膜下出血
一過性脳虚血
一過性脳虚血
一過性脳虚血?
脳出血
脳出血
脳出血
脳出血
高血圧性脳症
心筋梗塞
不明(心筋梗塞?)
大動脈瘤
脳出血
一過性血圧上昇
心筋梗塞
一過性血圧上昇?
不明
一過性血圧上昇
くも膜下出血
脳卒中?
脳出血
脳出血
手術
術後5日目に死亡
軽快
軽快(平生高血圧)
軽快
手術のうえリハビリ
手術のうえリハビリ中
入院加療のうえ家庭生活中
手術、意識障害存続
入院加療のうえ家庭生活中
カテーテル治療
死亡(既往に心筋梗塞)
手術,軽快
手術,言語障害、麻痺存続
脳CT異常なし
カテーテル治療後リハビリ
脳検査に異常なし
救急施設にて点滴後帰宅
降圧剤連用開始
手術,軽快
意識回復せず
軽快
第4病日死亡

                                           (武藤,佐野:2000)